私は、私にとってのミューズを描きたいと思っている。そしてできれば、そのゆらぎの中の迷宮で私に力を与えてくれる存在もミューズであって欲しいと願っている。たとえ私の描く女性像が、私の心の中の脆弱(ぜいじゃく)なセンチメンタリズムや、青白い煩悩の炎から生まれたものであったとしても、ミューズの祝福を与えられれば、純粋へと昇華(しょうか)し、再び永遠なる真実の女性として生まれ変わる事ができるのだから。そして、唯一私に残された真実があるとするならば、描くという祈りにも似た行為の中で、描こうとする女性像を通して遥か彼方にいるはずのミューズからの慈悲の微笑を、一瞬間でも受けられるのではないかという幻想を信じること、それだけかもしれない。
Biography
1954年、熊本県本渡市に生まれた鶴田一郎は、天草地方の豊かな自然に囲まれて育った。
幼少の頃から絵を描くのが好きだった彼は、高校を卒業後、多摩美術大学グラフィックデザイン科へ進み、イラストレーターを目指す。時代の波に乗り西洋文化に影響を受け、写実的な作品を描いていく中で、自分が「日本人である」という意識が芽生え次第に淋派、弥勒菩薩をはじめとする仏教美術等、日本独自の美意識へと傾倒していった。
彼の描き出す美人画は、まさにアールデコのヨーロッパ的要素と自分の中の日本的なものが見事に融合し、たおやかで華やかな世界を創りあげている。1987年にはノエビア化粧品の広告に抜擢され、CMアートの先駆者として人気を博し、彼の作品の中の女性たちは多くの人々を魅了し続けている。
「私は私自身のミューズ(女神)を描きたいと思っている。」
と言うように、それは彼の永遠のテーマであり、作家活動の原点ともいえる。